空き家を相続放棄しても管理責任を問われる⁉知っておくべき知識とは

昨今、日本全国では空き家が大きな社会問題となっています。原因はいろいろ考えられますが、多いのは、親と離れたところで相続人が自分の生活を築いてしまっている場合でしょう。
親が大切にしていた家屋を引き継いだからといって、自分ですでに過ごしやすい生活環境を築き上げてしまっている場合は、家を活用することもなかなか難しくなってきます。
放置されている空き家は、多くの危険をはらんでいます。カビやホコリの温床となったり、害獣や害虫が住みつき、近隣住民の迷惑になってしまったりもするのです。さらに最悪の場合、家屋が半壊や倒壊をした結果、誰かに危険が及んでしまうかもしれません。
手放すときに誰しもが真っ先にひらめくのは、「相続放棄」という手段かと思います。しかし、相続放棄をしても空き家の管理義務は残ってしまうのです。今回のコラムでは、相続放棄と相続放棄をしても残る管理責任について、わかりやすくご紹介していきます。
そもそも相続放棄って何?
相続の際に、借金など相続人である自分にとって不利益となるものがあれば、多くの人がそんなものは相続したくないと考えるものです。しかし相続とは、いらないというだけで拒否できるものではありません。「相続放棄」という手続きをおこなう必要があるのです。
相続放棄とは
まず遺産相続というものは、残された財産のうち預金や不動産などの自分にとって利益になるものだけを選んで受け取れるわけではありません。もし仮に被相続人に借金があったり、受け継ぎたくない家屋があったりしたとしても、まとめて相続しなければなりません。
そんな相続したくない負の遺産が多いときにおこなうべきなのが、相続放棄です。相続放棄とは、残された財産のすべてを放棄してしまうことをいいます。別の言い方をするならその相続には関係のない人間になる、つまり相続人ではなくなるということです。
相続放棄をすれば「遺産分割協議」にも関わる必要はありません。仮にほかの相続人たちが、昨今話題になることも多い「争う親族と書いて争族」といわれてしまうような状態になるのを避けられるかもしれません。その点、相続放棄をするのは安心ともいえるでしょう。
残された財産のうち、自らにとって利益となるものが不利益になるものを上回っている場合は、そのまま相続する手続きに入ってしまえばよいでしょう。しかし、負債があまりにも多く相続放棄をしたい場合は、3ヶ月以内に手続きをしなければなりません。
相続放棄は一人でもできる
相続放棄は、相続人個人に与えられている権利です。仮に相続人が複数いるからといって、全員の同意が必要なわけではありません。また、ほかの相続人には内緒にしたまま手続きを進めることも可能です。申述書などの必要書類を揃えて手続きをおこなっていきましょう。
書類は被相続人が亡くなった地域にある家庭裁判所に提出します。ひとつの注意点として、相続放棄はおこなうことができる期間が設定されています。その期間は3カ月間。被相続人が亡くなってから、3カ月以内に相続放棄に必要な手続きを進めることが必要です。
とはいえ、一人ではいろいろと不安もあるでしょう。ほかの相続人の中に放棄を考えている人がいれば、一緒におこないたいと考える方もいるかと思います。ほかの相続人と一緒に手続きをすれば、相続放棄に必要な書類を流用できるなどのメリットもあります。
しかし、相手の行動次第でいつの間にか熟慮期間が過ぎてしまって、「放棄したかったのにできなくなった……」という事態も十分に考えられます。相続放棄をすると決断したのなら可能な限り自分でおこない、ほかの人と歩調を合わせずにおこなうことをおすすめします。
相続放棄の手続き
ここからは相続放棄の手続きについて触れていきます。しかし、その前にまず「相続放棄を本当にすべきかどうか熟考すべき」とお伝えさせてください。残された財産をしっかりと調べ、どんなものが存在するのかを把握することは、とても大事なことです。
前述しましたが、相続放棄をおこなってしまうと、すべての財産を手放さなければなりません。そこにはもしかしたら代々まつわる家宝や思い出の品など、とても大切な代物が含まれている可能性もあります。本当にしっかりと熟考したうえで、答えを出しましょう。
相続すれば不利益になると結論を出した場合は、相続放棄の手続きに取り掛かります。相続放棄の手続きとは、つまり家庭裁判所に対して相続放棄の申し立てをおこなうということです。
【手続きに必要な書類】
申し立てをおこなうために必要な書類は、下記のものです。
・相続放棄の申述書
・被相続人の戸籍の附票、または被相続人の住民票の除票
・申述人(相続放棄する人)の戸籍謄本
・被相続人の死亡がわかる戸籍謄本
・収入印紙800円分
・家庭裁判所からの返信用の郵便切手
これらの必要書類の中で、用意するのにもっとも手間がかかるのは、戸籍謄本でしょう。戸籍謄本にはいろいろな形式のものがあり、記載されている内容も変わってきます。
申述人が代襲相続人である場合は、被代襲者の死亡を示す戸籍謄本や被相続人が生まれてから亡くなるまでのすべてが把握できる戸籍謄本類が必要になってきます。
状況によっては被相続人の子供や親などの死亡がわかる戸籍謄本や、被相続人の子供や孫が生まれてから亡くなるまでを把握できる戸籍謄本類などが必要になってきます。
こういった戸籍謄本などの必要書類については、被相続人との関係性によって変わってくる場合があります。そのため、必ず家庭裁判所の担当職員などに問い合わせてください。
相続放棄の準備は正確に
市販されている相続関連の書籍や、本コラムのようなネット上にある情報もありますが、みなさん一人ひとりに合わせて正確な情報を書いているわけではありません。
そのため、必ず自分自身で家庭裁判所の担当職員に被代襲者との関係性を説明して、どんな書類が必要になるのか確認しましょう。戸籍謄本類を役所で用意してもらう費用も、決して安いわけではありません。一度で正確な準備がおこなえるようにしたほうが賢明です。
申述書は家庭裁判所のホームページからのダウンロードも可能ですが、できることなら直接家庭裁判所へ取りにいったほうがよいでしょう。被相続人との関係を説明したうえで、どんなものが必要になってくるのか直接確認するのです。合わせて郵便切手の金額も確認を。
以上が必要な書類となってきます。すべての書類を揃え、申述書などに必要事項を記入し、押印すべきところに認印を押したら、家庭裁判所に提出します。
すると、家庭裁判所から「照会書(裁判所からの質問状のようなもの)」という書類が送られてきます。一つひとつの質問にしっかりと回答を記入したら、家庭裁判所へ返送しましょう。
その後、大体1週間から10日前後で、「相続放棄申述受理通知書」が送られてきます。この書類は相続放棄が認められたことを意味するので、この通知書が届いたら、無事に相続放棄の手続きが完了したことになります。
相続放棄の手続きは、書籍やネットで手順を調べれば、自分でもおこなえます。しかし、ほんの少しでも不安な点がある場合は、専門家に相談してみたほうがよいでしょう。
空き家を相続放棄するとどうなるの?

遺産の中には、亡くなった方が生前に住まわれていた住宅などの不動産も、もちろん含まれます。受け継いだとしても自分では住めないし、ほかの活用方法も難しいから、相続放棄をしようと考えられる方も少なくはないでしょう。
しかし、たとえ相続放棄をおこなっても、受け継ぎたくない不動産とすぐに関係を断てるわけではありません。ここからが本コラムの本題となります。
相続放棄をしても空き家の管理義務は残る
いきなりですが、想像してみてください。あなたがとある不動産の相続人になったとします。住むことも、誰かに貸すこともできず、売却することも難しそうな不動産のため、あなたは相続放棄をおこないます。その結果、その不動産の相続権がほかの相続人に移ったとします。
「ほかの遺産も相続できなかったけれど、一番厄介そうな不動産とはこれで無関係になれた」あなたはそう思われるかもしれません。しかし、それは大きな間違いです。
なぜなら、民法940条により「自己の財産を管理するのと同一の注意をもってその財産の管理を継続しなければならない。」と定められているからです。
そういうわけで、あなたの注意不足により相続放棄した不動産で問題が起きないように気をつけましょう。もし、ご近所に損害を与えると、あなたに対して損害賠償請求されることがあります。
全員が相続放棄をした場合は相続財産管理人の管理下に
ひどい状態の家屋など、相続人全員が相続する権利を放棄した遺産は、「相続財産法人」と呼ばれる一つのまとまりに含まれて管理され、清算されていくことになっています。
この相続財産法人の管理と清算をおこなっていく者を、「相続財産管理人」と呼びます。相続財産管理人は、相続に利害関係を持っている人、または検察官が家庭裁判所に申し立てることで選ばれます。
相続人全員が相続放棄をおこなった空き家も、選任された相続財産管理人が管理や処分をおこなっていきます。こうなってようやく、相続放棄した者は、受け継ぎたくない不動産などの管理義務から解放されることになります。
相続放棄後、誰も空き家を管理しない場合のリスクとは
前述しましたが、相続人全員が相続放棄したとしても、相続財産管理人が選出されるまでは、相続人にその空き家などの管理義務が生じます。そのため、選出されるまでは、誰かが管理する必要があります。
なぜなら、定期的に誰かが手を入れない空き家などは、時間の経過に合わせてとても危険な存在になってしまうからです。
カビが繁殖する
長い間、人の出入りがない空き家は、湿気や汚れが溜まってしまい、カビが生えやすい状態になっています。カビが大繁殖してしまうと、悪臭の原因となるだけでなく、家中の建材をむしばみ、ダメージを負った建材はシロアリの格好の標的となってしまいます。
また、カビの胞子は空気中を浮遊し、健康に害をもたらします。空き家を放置しておくことでカビが大量発生してしまった場合、空き家が崩れてしまうだけでなく、仮に地震などに耐えられる状態であっても、近隣住民のみなさんの健康を害してしまうおそれがあります。
害獣害虫の巣になる
空き家は放置することでさまざまな獣や虫が住みついてしまう危険性があります。そうなれば建材が食べられてしまい、糞尿などの影響で建材が傷んでしまうおそれもでてきます。
さらに、害獣害虫が住みついてしまうことは、近隣住民の健康に多大な悪影響をおよぼします。獣の糞尿の臭気や、ゴキブリやシロアリなどが動き回ることで、近隣住民の健康を害することは間違いありません。
万が一、イノシシやハチの場合は、刺したり突進したりと命に関わる問題が生じて、最悪の場合は誰かがケガをしてしまうかもしれません。そうならないためにも空き巣を放置しないほうがよいでしょう。
建物が倒壊する
建物の多くは定期的な管理をしなければ、どんどん老朽化していきます。前述したとおり、カビが大繁殖して建材がもろくなってしまったり、害獣害虫にむしばまれて耐久力が損なわれてしまったりすれば、小さな地震や台風を受けて倒壊してしまうかもしれません。
その空き家がある地域にもよりますが、半壊や倒壊すれば、近隣の住宅に大きな被害を出してしまうこともあるでしょう。人命にも関わる大問題に発展するおそれもあるのです。
相続放棄だけでは空き家を手放せない

空き家は相続放棄をしたからといって、すぐに関係を断てるわけではありません。あなた以外の相続人にしろ、選出された財産管理人にしろ、誰が管理を始めるまでは相続放棄をした者にも空き家の管理責任があります。
管理責任は民法で定められていることですし、いざ問題が発生したときに、知らなかったでは済まされません。そのため、相続放棄の手続きを終えたあとで、家庭裁判所に相続財産管理人選任の申し立てなどの対策をおこなう必要があります。
まとめ
空き家は相続放棄をすれば縁を切れるものではありません。定められた規則があり、それを知らないままでいれば問題を放置することになってしまいます。いつの間にかひどい状態になってしまった空き家が、近隣住民の人命を脅かしてしまう危険性もあります。
そうならないためには、空き家に対して適切な対策が必要です。しかし、知識も経験もない人が独力でやろうとしても、家屋の管理は難しいでしょう。空き家の建っている場所が生活圏から遠く離れている場合には、管理をしようにもする時間がないなんてこともあります。
そのため、専門家を頼ることをおすすめします。自分で掃除などの手入れをしなくても管理を任せられるので、空き家によって引き起こされる問題を回避することができるでしょう。